第9回 地域×地域包括支援センター


2025年5月21日(水)

ともづな浦安駅前 本田 圭助 氏


【対話がひらく支援と社会のかたち】

 

どれだけ制度が整っていても、それを使えるのは「制度を知っていて、申請できる人」に限られる。現場では、支援を受けるべき人が申請の仕方もわからず、知らないまま年月だけが過ぎているケースが少なくない。制度の網の目をすり抜けた人たちに支援を届けるには、もっと手前の“出会い”が必要だ。

 

実際の支援の現場で大切なのは、人と人との関係である。「この人になら話せる」と思える相手の存在こそが、支援の入口になる。制度や専門知識ももちろん大事だが、それだけでは不十分だ。雑談や冗談、日常のやりとりの中で生まれる信頼こそが、相談への最初の一歩を支えている。

 

さらに、語ることそのものに力がある。話すことで初めて自分の考えが整理され、自分の感情や経験に改めて気づくこともある。他者の言葉を聴くことで、自分にはなかった視点が加わる。対話は知識を増やす場ではなく、自分と他者の輪郭をたどり直す行為でもある。

 

こうした対話の場を持続するには、無理のない仕組みが必要だ。人数を絞り、役割を分担し、目的を設定しすぎない。「なんとなくまた来たくなる場」は、堅苦しさではなく、柔らかさと余白のある構造から生まれる。そして、参加者が自分のペースで関わることができることも大切だ。

 

社会を動かすのは、結局人の言葉である。誰かのさりげない一言が、別の誰かの背中を押す。「行ってみたらどうだ」「それでもいいと思うよ」——そんな言葉が、人生の選択肢をひらく。AIや制度では届かないところに、人の声が届く。対話はその声を生み出す場であり、人と人のつながりが、静かに社会を変えていくのだ。