第5回 地域×対話のある生活


2025年1月15日(水)

わのば事務局 小黒信也


 

「対話」から始まるケアと地域の再設計──誰の人生にも物語がある

 

支援や地域づくりの現場で、私たちは何度も「対話」の力に出会う。誰かの言葉に耳を傾け、気持ちを受けとめ、沈黙を共有する。そこには、AIには真似できない“人間ならではの営み”がある。支援とはアドバイスを与えることではなく、まず“聴くこと”から始まる。信頼関係はそこから生まれ、本人が本当に望む目標も、対話の中で少しずつ姿をあらわす。

 

ケアプランもまた、本来はその人自身の「どう生きたいか」を中心に据えるべきものだ。だが現実には、家族や支援者の意図が反映されすぎて、本人の思いが置き去りにされていることが少なくない。「こうしてみたい」と自分で立てた目標には力が宿り、人は自分の人生をもう一度歩き出すことができる。支援者は“してあげる人”ではなく、“引き出す人”でありたい。

 

同じように、家族の中にも語られなかった思いがたくさんある。「親だからしっかりしなきゃ」「子だから応えなきゃ」といった理想像が、本音の対話を遠ざけてきた。だが、今だからこそ言えること、今だからこそ向き合えることもある。子どもの柔軟さと、大人の再出発の勇気が、家族関係をやさしく編み直していく。

 

地域に居場所をつくるときも、「してあげる」から始まると、上下の関係が生まれてしまう。支援のつもりが、かえって相手を“弱い存在”と見なす構造をつくってしまうことがある。大切なのは、ただ一緒に“居ること”を大事にする姿勢。何もしなくても、黙っていても安心できる空間が、居場所づくりの第一歩になる。

 

そして、これらの対話の力は、子どもたちの未来にもつながっている。キャリア教育に必要なのは、“正解の生き方”を教えることではない。失敗や遠回り、不登校ややり直しの経験も含め、地域の大人たちが語るリアルな人生の物語こそが、子どもにとっての学びになる。地域と学校がつながり、共に問いを探す対話の場をつくること。それが、自分の人生を自分で選ぶ力を育むキャリア教育になる。