第1回 地域×音楽


2024年9月18日(水)

福祉バンドビート 小原繫久氏


【応援したい場所がない? 「うわー!」と叫べる中間的空間の可能性】

 

音楽の役割は、癒しや娯楽にとどまりません。時にそれは、抑えきれない感情を解放する手段になります。誰かを応援する歌を全力で叫ぶこと、何かに熱くなって「うわー!」と声をあげることは、感情を外に出す健全な営みであり、自分の存在を実感できる瞬間です。しかし、私たちの日常には、そうした「声を出してもいい場所」がほとんど残っていません。

 

自宅では近隣への配慮から大きな声を出すのをためらい、公園では「静かに」と注意され、カラオケでは盛り上がりすぎると浮いてしまう。スポーツ観戦やライブ会場といった明確なイベントには行きにくい人も多く、声を出しても許される「中間的な場所」が見当たらないのが現状です。

 

本来、音楽は聴くだけでなく、感情を動かし、思わず声や身体が反応してしまうような力を持っています。その力を安心して表現できる「音楽的な空間」は、個人のメンタルヘルスや社会的つながりにも大きく関わってきます。叫んでもよくて、笑ってもよくて、何かを応援してもいい、そんな“共鳴の余白”が日常には必要なのです。

 

そしてそれは、特別なパフォーマンス空間である必要はありません。たとえば、地域の一角で定期的に行われる「気持ちを声に出す時間」、音楽を流しながら一緒にリズムを刻む「ゆるやかな応援の場」など、日常と非日常の間を埋める柔らかな空間が鍵になります。

 

誰かを応援したい、何かに共感したいという気持ちは、社会を前向きに動かす原動力でもあります。そうした気持ちが出せる場所が地域にないということは、人々が“つながる機会”を失っていることでもあるのです。

 

音楽は、人と人をつなぐ媒体であると同時に、「心を動かしてもいい」「感情を外に出してもいい」という許可を与えてくれる装置でもあります。叫んでもいい。誰かに届かなくても、まずは自分の心が震えれば、それで十分です。地域には、そんな“感情の中継地”としての空間が、いまこそ求められています。