第12回 地域×場づくり


2025年10月15日(水)

株式会社スロージャーナル

代表取締役 稲村 絵美里 氏


柔らかく続く地域へ──“つながり”のかたちを見つめ直す

 

最近、「地域のつながり」や「誰もひとりにしないまちづくり」という言葉をよく耳にします。

けれども、つながりを重ねるほど疲れてしまう人も少なくありません。

人と会うのは楽しいけれど、いつも誰かと一緒では心が休まらない。

“ひとりでいられる時間”は、決して悪いことではなく、心を整えるために大切な時間です。

つながることと離れること、どちらも人にとって自然なリズムなのです。

 

また、人が関わり合う場では、意見の違いや立場のずれが生まれます。

そんなときに大切なのは、同じ考えになることではなく、否定しないこと。

「そう思うんですね」と受けとめるだけで、場の空気はやわらぎます。

人は“正しさ”よりも、“聴いてもらえた安心”の中で心を開いていくものです。

対話とは、説得するためではなく、互いに考えを育てるための時間。

否定しない関係が、世代をこえて人をつないでいきます。

 

地域には、イベントや活動をしてもなかなか人が集まらないという悩みがあります。

けれども、本当に人を支えているのは、“何もしなくてもいい場所”です。

話してもいいし、話さなくてもいい。

顔を見てお茶を飲むだけでもいい。

そんな“いられる場所”にこそ、安心とぬくもりがあります。

目的や成果を急がず、「今日は来られてよかった」と思えるような場が、人の心をそっと支えています。

 

そして、活動を長く続けるためには、がんばりすぎないことが何より大切です。

「自分がやらなきゃ」と抱え込みすぎると、疲れがたまってしまう。

うまくいかない日があってもいいし、しばらく離れてもいい。

“やめても戻れる”自由があることで、人は安心して関われるのです。

活動は形が変わっても、関係が残ればそれで十分。

がんばらない文化がある地域ほど、人も活動も長く息づいていきます。

 

そして、これからの地域づくりで大切なのは、正解を探すことではなく、問いを分かち合うことです。

「どうすればいいのか」「これでいいのかな」と一緒に考え続けることが、信頼を育てます。

すぐに結論を出さず、迷いや悩みを語り合える関係こそ、変化の時代に強い土台になります。

たくさんの人を集めるより、少人数でも本音で語れる時間を大切に。

問いを持ち続ける関係が、地域の未来を柔らかく支えていくのです。

 

つながること、離れること、語ること、休むこと──

それぞれが無理のないリズムで重なり合う地域。

柔らかく続く地域とは、人と人が「ちょうどいい距離」でいられる場所のことかもしれません。