2025年4月16日(水)
(株)NTTデータ経営研究所 植田 順氏
対話のちから──人と人をつなぎ、安心を生むやさしい時間
「対話(たいわ)」という言葉を聞くと、少し難しく感じるかもしれません。でも、実は昔から私たちがしてきた「ゆっくりと心を通わせる会話」のこと。急いで結論を出したり、正しいか間違っているかを決めたりせず、「あなたはそう思っているんですね」と、まずはその人の話をそのまま受けとめる。そんな対話の姿勢が、今、あらためて大切にされています。
たとえば、夫婦の会話で「ただ話を聞いてほしいだけなのに、すぐアドバイスされてモヤモヤする…」という経験はありませんか? 逆に、「悩みを話したら、頑張れと言われてつらかった」という人もいます。大切なのは、「こうすべき」ではなく、「そう感じたんですね」と、相手の気持ちにそっと寄り添うこと。対話は、そのようなやさしい時間をつくるための土台になります。
対話は、家族との関係を見直すだけでなく、自分自身の気持ちや考えと向き合う時間にもなります。「なぜこの言葉に心が動いたんだろう」「私は本当はどうしたいんだろう」。人と話す中で、ふと自分の本音に気づくこともあるのです。
また、地域や仲間との関係でも、対話は大きな力になります。昔ながらの「話を聞く」「話してみる」という関わりの中に、安心や信頼が生まれます。誰かが何かを話し出したら、すぐに答えを出そうとせず、ただ「うんうん」とうなずきながら聴く。それだけで、その場の空気があたたかくなり、心がほぐれていくのです。
対話は、家の中だけでなく、地域の集まりやサークル、病院や施設の中でも生かせます。それぞれが安心して話せるような「場づくり」があれば、役職や年齢に関係なく、みんなが一人の人として関われるようになります。
今の時代は、不安なことも多く、人とのつながりが薄くなっていると言われます。でも、だからこそ「対話」は、安心して暮らせる社会を支える“見えないインフラ(基礎)”になります。道や水道のように、暮らしの中に自然とあるもの。それが「対話」であってほしいのです。
ちょっとしたおしゃべりでも、そこに相手を思いやる気持ちがあれば、立派な「対話」になります。深く聴き、ていねいに話し合う。その積み重ねが、人を元気にし、まちを明るくしていく。そんな、やさしい力を持つのが「対話」なのです。